共 ニ 振 レ テ 感 ズ ル


 ガガゼトほどではないが、スピラにおいてはベベルも北方に位置する都市だ。あるいは水上都市であることも関係しているのかもしれない。罪人を捕らえておく牢獄は酷く寒く、ザナルカンドへの辛く長い旅を考慮し、なるべく軽装で旅を続けてきたユウナの身には、しんしんとした牢獄の寒さは、ある意味、雪と氷が舞い踊るマカラーニャよりもこたえた。
 皆、今頃どうしているのかな。マイカ総老師ともう一度お話できないだろうか。総老師なら、シーモア老師の罪も、私たちのしたことも分かってくださると信じていたのに…。紫に変色しそうな唇をがたがたと震わせながら、ユウナは呟いた。何かを考えていないと、寒さと寂しさで気が触れてしまいそうになる。ガードである仲間たちの名前を一人一人あげていって、ユウナは皆の無事を祈った。
 けれども、皆のことを思うと、一体何のために自分は旅をしてきたのか、と胸が締め付けられた。自分は、そして父は。悲しみから目を逸らすためじゃない。悲しみの根源をなくすため、召喚士は旅をするのではないのか。
 スピラを、知っているようで、何も知らない。自分の意思で動いているようで、動かされている。そして利用された。悔しくて、ユウナは涙をこぼした。人前では泣かないように、召喚士として相応しく笑顔で強くありたいと常に願っているユウナだが、今だけは涙をこらえることは出来なかった。己が身の不甲斐なさが情けなくて、大切な人たちを思い、ユウナは嗚咽を隠すことなく泣いた。

 そんなユウナの涙に誘発されたように、暗い牢部屋に誰かが近づいてくる足音が聞こえた。ひたひたと丁寧な足取り、その足音に重なる布ずれの音。誰であるかは、すぐに知れた。この落ち着いた足音にユウナは聞き覚えがあった。それも当たり前であろう。何度となくその人物とは顔を合わせているのだ。
 ユウナはごしごしと腕で涙を拭き取り、きっと顔を上げた。唇を一文字に引き締める。負けてなるものか。挫けそうだった心を懸命に奮い立たせて、ユウナは毅然として訪問者を待った。
 やがて、ユウナが捕らえられている牢獄のある、部屋の扉の錠がガチャリと錆びた金属音を立てた。ギィィィと重々しく扉が開く。扉の隙間から徐々に明るみになっていく空間には、ユウナが予想したとおりの人物が鉄格子の向こうに綽然として立っていた。
「ご機嫌はいかがですか、ユウナ殿。」
 余裕に満ちた顔。額から頬に広がる葉脈のような青の紋様が、暗がりの中で殊に目だって見えた。
「ガードの皆はどこです?シーモア老師、あなたは一体私たちをどうするおつもりなのですか?」
 鋭く目を怒らせて、立て続けに言い立てたユウナに、シーモアはフ、と口をほころばせた。
「どうやらご機嫌斜めでいらっしゃるようだ。私の花嫁は随分強気な方なのだな。」
 シーモアはそう言うと、後ろに控えていたグアド族の青年達を下がらせ、後ろ手に扉を閉ざした。もしこの場にワンドがあったら、もしくはこの魔力を封じ込める鉄格子が彼と自分の間になかったら、すぐさま異界送りを試みるところだ。けれどもユウナのそのような意思さえまったく意に介さぬように、シーモアはにこやかにユウナの瞳を見つめていた。



「今なら、まだ間に合う。」
 シーモアは静かに言葉を切った。
「あなたがガード衆の命を諦め、私の元に戻ってくると言われるなら…私が総老師に掛け合いましょう。あなたがザナルカンドへ旅立てるよう、取り計らいます。総老師は賢明な方だ。よりよい方法を採られるだろう。」
「何を言われるのです」ユウナは驚きと不快感で目を大きく見開いた。
「ガードのみんなの命を諦めて…、それで旅に出るなんて、そんなこと、考えられない。」
 ユウナは首を何度も左右に振った。
「これはもう私一人の旅ではないんです。皆が私を助けてくれている。その皆を捨てろだなんて、できるわけない。」
「やれやれ…やはり強情なお方だ。では、あなたの助命を乞う理由がなくなりますね、ユウナ殿。困った方だ。そのように頑なではいけない。」
 だが、困ったという言葉とは裏腹、シーモアは沈着していた。彼には、ユウナの答えは大方予想できていた。また、いずれにせよ、彼女の助命はマイカ総老師に乞うつもりであったのだ。今の取引は、少女を自分のほうへ引き寄せる手段の一つに過ぎない。
 誰の邪魔も入らぬこの牢獄に、シーモアがわざわざ足を運んだのには別の理由があった。
 シーモアの真の目的、それを達成するためには、このユウナがいなくてはならない。
 近い将来、少女は大召喚士としてシンを倒すだろう。彼女にはそれだけの秀でた力がある。そして、ユウナが究極召喚を発動するとき。そのときには、究極召喚獣と大召喚士の絆が不可欠となる。
 つまり、シーモアが新たなシンとして生まれ変わるためには、自身がユウナの究極召喚獣となった上で、彼女との強い結びつきが必要になるのだ。
 当初、シーモアはユウナを花嫁に迎えることで、ザナルカンドへの道すがら、彼女との絆を深めていけばよいと考えていたのだが、彼女がエボン寺院に対して抵抗を見せたため、事態は差し迫っている。悠長に構えている時間はない。

 シーモアは笑みをたたえたまま、向こう側に居るユウナを絡め取るような指使いで、鉄格子に触れた。すると、シーモアが鉄格子に触れた途端、シーモアの体躯は鉄格子の外側から内側へとするりとその姿を移動した。ユウナが気がついたときには、何の障害もない状態で、鉄格子の中、彼女はシーモアと相対していた。
「……!」
 ユウナは後しざりした。恐怖にひきつった顔がシーモアを見上げる。シーモアは悠然とユウナに微笑みかけた。
「私がどのような身体であるかはご存知なのでしょう?これくらい容易いことだ。」
 シーモアはユウナに向かって手を伸ばした。狭い牢獄内では、ユウナはすぐにその手に捕まった。長い指がユウナの腕を握りしめた。
「い、いやっ……。」
 生理的に、ユウナは危険のシグナルを嗅ぎ取った。嫌だ、と心が、身体が、叫んでいる。しかし、傍には誰も居ない。ルールーもワッカもキマリも、アーロンもリュックも、勿論ティーダも、ベベルの奥深くにある牢獄の中で捕らわれているユウナを助けてくれる者など、誰も居なかった。
「やだっ、やめてください…!老師…!」
 あらん限りの声をあげて、掴まれた手を振り払おうと、ユウナは必死にもがいた。だが、まるで蜘蛛の糸に捕まったようだ。もがけばもがくほど、ユウナを掴む手は強くユウナを捕らえて放さない。
「あっ」、暴れた結果、身体のバランスを崩したユウナが牢獄の壁に強く背を押し付ける恰好で床にずりおちるまで、さほどの時間はかからなかった。

 シーモアはユウナの姿勢に合わせて腰を落とした。ユウナは怯えた視線を送っている。そのユウナを宥めるように、ゆっくりと丁寧な口調でシーモアは語った。
「召喚士は、あらゆる祈り子と魂を共鳴させ、強靭な精神力を身につけなければなりません。そうですね?」
 ユウナは、シーモアの言っていることが理解できなくて、眉をひそめて彼を見返した。
「ならば、私とあなたの利害は一致するはずだ。……私にもあなたとの強い絆が必要なのだから。かのユウナレスカとゼイオンのように―」、それとも自身と母のように?―されど、その言葉を思いついた折、シーモアは自嘲気味に微笑んだだけであった―、シーモアは素早くユウナの両手首を縛りつけ、牢獄の壁とシーモアに囲まれて居場所を失ったユウナの唇を奪った。
「ん…んん!」
 ユウナはシーモアとの口付けを拒もうと必死だった。固く閉じられた唇は、あたかも咲き誇ることを怖がる臆病な花のようだった。つぼみの中に閉じこもっているようにも見えるユウナの青さを目の前にして、シーモアはくすりと笑みをこぼした。
「私としては…できるならあなたからも同様に求めていただきたいのですが…、まだ若くていらっしゃるあなたにそのようなことを望むのはいささか無謀というもの。」
 シーモアはユウナの両の手を一瞬解放した。けれどもそれは、彼女を自由にするためではなかった。シーモアの体は依然としてユウナが逃げるのを許していなかった。
 シーモアから、彼の体を構成している幻光虫が放たれた。それがユウナに向かって飛び火するように空中を漂い、徐々にユウナの手首に絡みついてゆく。シーモアの幻光虫はそのままユウナの手を壁に伝う形で上方へと持ち上げていった。ユウナに手錠をかけて壁から吊るように幻光虫は動き、ユウナを固定してからその場で固まった。ユウナの腕布の裾だけがゆらゆらと蠢き、両手を掲げているユウナの二の腕を撫でていた。
「い、いや…!」
 いかに拒絶の叫びをあげようとも、最早ユウナの手は動かなかった。またユウナの足も同様に、シーモアの意思に従って彼の指から分離していった幻光虫が足首を床に固定させていた。いつのまにか、ユウナの四肢は全て抵抗する術を奪われていた。シーモアは満足した顔つきで、ユウナの衣服に手をかけた。そろそろと帯を解き、着物を崩していく。

 嫌だ嫌だとユウナが大声をあげても、虚しく反響するばかりだった。寒々しい空気さえ忘れてしまうほどに、ユウナは羞恥と絶望で狂いそうになっていた。そのユウナの悲しみをひしひしと感じながらも、シーモアは昂揚する心を抑えきれないでいた。自分の目の前で、生まれたままの姿を見せるだろう蝶に、彼の胸は自然と逸った。
「このような場所でとは…残念です。あなたがもっと利口な方なら、恐らくは幸福の中で絆を結べたのに。」
 裸体に、足を固定してあるブーツだけを残し、ユウナの薄い下着を開け放ったところで、シーモアは四肢を自身の幻光虫に絡め取られているユウナを見据えた。まだ女性としては未熟だが、白に紅が仄かに色づく体は、シーモアを喜ばせるには充分であった。
「できるなら…美しい声をお聞かせ願いたいものだ。」
 シーモアは自身の上半身を床につけるように這いつくばり、舌をぺろりと出した。シーモアに向かって足を開かされた恰好で、ブーツ以外はすべて剥がされてしまったユウナの秘部へと、顔を近づける。恐怖で怯えた無垢な少女をしとどに濡らすには時間もかかろう。けれど、シーモアの方はそれほど長く持ちそうにはない。既に実体は失われている身だ。激しい欲求に誘われ、絶頂の極みに到ると同時に昇華してしまうことも大いに考えられる。限られた時間の中で、シーモアは有効的に少女との絆を作っておかねばならなかった。
 れろり、と長い舌でシーモアはユウナの足の付け根を舐める。「やだ……っ」ユウナが悶えて、背を仰け反らせた。それでも、ユウナが動けないのをいいことに、シーモアは舌でユウナを弄り続けた。いつしか、痺れたように、ユウナの内股が震え始めるそのときまで。
 実は、シーモアは舌に強力な媚薬を含ませていた。これもまた禁じられているエボンの秘術だ。腐りきった寺院の中では、権力を笠に着て好き放題する者が多いが、言うまでもなく色遊びもその一つであった。

「あ……あぁぁぁぁ…!」
 時を移さず、ユウナの若い体は、薬に蝕まれていった。男を知らぬ体にはそれは甘く、そして焼けるような熱い刺戟を与えることだろう。ショック死すれすれまで激しく高ぶる鼓動は、シーモアを受け容れるに十分なだけの蜜を吐き出させるに違いない。
「い、いや…!なに、これ…!ひぁ、ぁぁっ……。」
 逃げられないというのに、ユウナは足掻いた。足掻くたびに、膨らんだ胸がぷるぷる震え、甘やかな香りを撒き散らすピンクの先端が暗がりを彩った。シーモアはその鮮やかな舞を目で楽しみ、上体を起こして、今度はその先端を舌で追った。同じく薬を塗りこんだ人差し指を用いて、ユウナの茂みをまさぐり続けることも忘れない。
「あぁ……っ、ひぁぁぁ…んっ、ぁぁぁ……!」
 ユウナの声が、拒否の叫びから次第に悶絶の嘶きへと変わり始めていた。甲高く後を引く裏返った声が、ユウナの神経が麻痺しだしたことをシーモアに告げていた。
「美しい声で鳴かれる。」
 シーモアは口の端を持ち上げて、ユウナに囁きかけた。ユウナの頬は紅潮し、目は潤んでいた。意に添わないながらも、体がどうしようもなく火照ってゆく現状に逆らいきれないでいる様子が、彼女の瞳の中に明瞭に見て取れた。
「これも召還士としての修行ですよ…。あなたはスピラの悲しみをなくしたいのでしょう?…召喚獣との交感は召喚士には必須なのだから…。感じようとすることが大事だ。」
 薬で理性を弱らせ、彼女の精神的な弱点を突きながら攻めるシーモアの策は、そのうちにユウナを彼の前に屈服させた。しめやかに濡れるユウナの茂みは、さながら雨に降られた森に似ていた。フッと笑うシーモアの笑い声が、ユウナの喘ぐ声の狭間に小さく響いた。
「私に従いなさい、ユウナ殿。私に従えば、共にスピラを救う事ができる。」
「や、ぁぁぁぁんっ!!」
 言い終わると同時に、薄暗い茂みに打ち込んだシーモアの太い楔は、ユウナの小さな蜜の噴出口を過つことなく見つけていた。凹凸がぴったりと嵌った二人の体は、すぐさま一体化して、上昇する熱気に組み込まれていく。

 はぁはぁと息を切らせて涙ぐんでいるユウナの、両手を掲げた脇から胸、腰と体のラインを今一度指の腹で弄んだシーモアは、一旦腰を引き、それから再びずぶずぶと甘やかな沼へと己を沈めていった。あまりの悦びに、思わずシーモアからも快楽のため息が漏れる。
「…これは…想像以上だ…。」
 耐え切れず、シーモアは腰を前後に揺らす。
「あっ」「ひぁっ」、ユウナの体が、シーモアの律動に合わせて蠢いた。それは、風にあおられて頼りなげに振れる野花のようにしなやかで軽やかに。
「肉体を持たぬ魂との交感は、魔力を研ぎ澄ますのですよ…。もっと私を受け入れて。」
 激しくユウナに突きたてながら、彼女の耳元で絶えず囁きかけ、シーモアはユウナの耳たぶを甘噛みした。ぐじゅぐじゅと水が気泡を含みながらかき回される音が、下部から聞こえてくる。
「あ…っ、い、いやぁぁんっ…・!」
 すっかり愛液にまみれたユウナは、もう意識が朦朧としていた。感じるのは、シーモアに蹂躙されている下半身の疼きだけ。相手を好きではないと思っている。嫌だと、頭のどこかでは訴えている。手も足も動かせない、緊縛された状態で犯されているのだと、理屈では分かっている。にもかかわらず、シーモアの声が、シーモアの動きが、否が応でもユウナを濡らし、高みへと誘導してゆく。自分の体の中に入っている固いものが、今のユウナはこの上なく気持ちよかった。
 だんだんと、ユウナの筋肉がシーモアを引き絞り始めた。きゅんきゅんときついのに弾力性のあるユウナの凹部は、シーモアを激しく圧迫し、彼の理性すらも奪おうとし始めていた。
「くっ…。」
 シーモアは忘我せぬよう必死に唇をかみ合わせた。何たる甘美で、何たる刺激的な感覚。しかし、ここで自失してしまっては、精神力でとどめているにすぎない彼の幻の体はあえなく散ってしまう。ぎりぎりのところでユウナの秘室とこすれ合う感触に、苦しいまでの高ぶりを覚えつつも、シーモアはますますユウナの奥の壺めがけて腰を突き出し続けた。



 シーモアは今や死人である。彼の精は子は成しえないものだ。それでも己の固執する少女とのより強い絆を求めて、彼は少女に儚い肉体を差し入れることをやめない。絆を求め、欲望を達したがゆえに、更に少女に執着してしまうという悲しい螺旋を、心のどこかでは覚っているのに。







あとがき:

200000リクにとベルさんからいただいた「シーユウ;18禁」でございました。
…た、ただエッチしてるだけになってしまった(凹)。申し訳ないです〜(汗)
ちなみに時期としては、浄罪の路に入る前です。リク、有難う御座いました!