You've Got Pets!(後編)
嵐×主×新
贔屓目抜きにしても、彼女のマッサージは上手いと思う。女の細腕だ、力はそんなに強くないのだが、ツボを心得ているのであろう、気持ちいいのだ。 彼女にマッサージをしてもらっているとき、ついうとうと居眠りをしてしまうのは、それだけ彼女のマッサージが心地よいからである。 だが今日は目が冴えていた。彼女はいつもどおり嵐の筋肉をしっかり解してくれている。嵐が気付いていなかった部分の疲れまで丁寧に解すものだから、驚くこともしばしばであったが、リラックスしている割には全く眠くならなかった。 それどころか、頭の芯は変な反響音を伴って震動していた。まるで鐘をつく音をすぐ側で聞かされている気分だ。 枕に顎を埋め込んだ格好で、嵐は何度も目を瞬いた。先程、思いもかけず聞き止めてしまった話が、まだ耳の奥に焼き付いている。 犬みたいなもの、か。 動物園のわんにゃんランドへ遊びに行ったときの彼女のはしゃぎようを思い返す限り、その比喩は好意の表れであると考えていいのだろう。けれど、同時に納得できないでいる自分が胸の奥で独り言を繰り返していた。 「わけわかんねー」。 彼女の眼差し、彼女の微笑み、彼女の手の温もり。その全てが動物に接するときのそれと同じだというのか。彼女に他意はないと分かってはいるつもりだが、少しだけ胸焼けがする思いがした。 やがて彼女がマッサージを終えた。彼女はぽんと嵐の背中を叩いた。 「お疲れ様!終わったよ?もう起きていいよ!」 「ん?もうか?」 あれこれと思いを巡らせている間に、時間だけしっかりと過ぎていたらしい。もう少し彼女のマッサージを受けていたい気がしたが、それを口にするのも気が引けた。 「そっか。どうもな」 嵐はむっくりと起き上った。けれども彼女に触れられていないと、寂しさに似た違和感を覚えた。嵐にとっては、スキンシップやマッサージを通して、彼女と触れ合うことがいつのまにか当たり前になっていたのかもしれない。 一瞬、逡巡したが、嵐は重い口を開いた。 「おまえ」 「うん?」 「おまえにとって、俺や新名ってペットみたいなもんなんか?」 「えっ?」 いきなり切り出された話に驚いて、彼女は目を丸く開いたが、すぐに破顔した。「あぁ!さっきの話ね?聞いてたんだ?」 「二人をペットにしたいって意味じゃないんだよ?二人と一緒だと、癒されるし、ワクワクするし、ドキドキするし、いっぱい幸せな気持ちをもらえるから、可愛くてしょうがない犬や猫と一緒にいるみたいだなっていう、ただそれだけ」 「ふーん。そんなもんなんか」 納得したような、うまく言い逃げされたような。 嵐と新名のどちらかを選べと言われて、動物の例を持ち出すのは、ちょっぴりずるいと思った。胸の辺りがこそばゆい。彼女がそう来るのなら、こちらも同様に返してもいいのだろうか。嵐は彼女の方へずいと前かがみになった。 「じゃあ、おまえに甘えていいんか?」 「えっ?」 「犬みたいってことは、じゃれてもいいってことじゃねぇのか?」 嵐は彼女の頬に触れた。頬から顎にかけてのフェイスライン、耳たぶ、唇。彼女はどこもかしこも柔らかかった。 「んう……っ、あ、嵐くん?」 彼女の顔がほんのりと赤らんだ。嵐は、ハハ、と笑いを零した。 「こんなの、いつもやってることだ」 「や、やってないよ!」 「嘘つけ。おまえ、これでもかってくらい、俺たちのこと触ってくるだろ。……今は俺だけだから、いっぱい触ってもいいぞ」 嵐はそう言うと、彼女の手を取り、彼女の人差し指と中指をそうっと口に含んだ。 「え、えぇっ!?」 嵐の大胆な発言と行為に、彼女はたじろいだ。 しかし悪戯っぽく笑った嵐の笑みに好奇心をそそられたのか、彼女は嵐が咥えたのとは逆の手で、嵐の胸板に触れた。 「うーん……、じゃあ……、ご遠慮なく」 嵐はぴくりと小さく震えたが、彼女はそれには気づかなかったようだ。 彼女は、惚れ惚れとした表情で嵐の胸板を見つめた。 「嵐くんの体ってほんとにキレイだよね……」 「男の体に"キレイ"って表現はおかしいだろ」 「そうかな。弾力性があってしなやかで……。憧れるよ。わたし、二の腕とかお腹とかぷにぷにしてるんだもん」 「女は柔らかい方がいいと思う」 「そうかなぁ……」 彼女の指は、嵐の胸から上方へと移動し、嵐の首筋に触れた。 「っ……」 しょっちゅうマッサージを受けているはずなのに、その彼女の指使いに、嵐の体はつと熱くなった。下半身から見えない靄が噴き出したかと思った。 「ん?どうかした?」 いつもは鈍いくせに、こういうときの彼女は耳ざとい。そういうギャップも、ぞくぞくする。嵐は瞬きしながら彼女を見つめた。 「いいよ、もっと触れよ」 いけるかな、なんてよこしまな考えに流されるふりをして、嵐はそのままゆっくりと彼女を布団に押し倒した。 「今は二人きりなんだから」 至近距離に彼女の顔があった。 「う、うん」 彼女の手はぎこちなく嵐の肩の上を擦り、首に巻きついた。 嵐は彼女に自分の頬を摺り寄せて、それから彼女の唇を吸った。 両手を彼女の腰に回し、服の上から撫でて体のラインを確かめる。陸に上げられたばかりの魚のように、彼女の体がぴくんと跳ねた。その反応に、脳内の興奮物質がどっと溢れ出た。 いいよと言われた気がして、嵐は一心不乱に彼女の唇を貪り始めた。舌と舌が絡み合い、いつしか嵐の手は彼女の衣服の中へと潜り込んでいた。 そのとき、風呂から出てきたらしい新名のすっ飛んだ声が、嵐の頭の斜め上を掠った。 「ちょ、ちょっと!アンタら、何やってんの!?」 いいところを邪魔された感は拭えない。嵐は彼女をかき抱いたまま、顔だけ振り返った。自分では分からないけれど、きっと物凄く不愉快そうな表情をしていたに違いない。 「おまえ、風呂から上がって来るの、早くねぇ?」 「早くないっスよ!嵐さん、抜け駆けなんてズリィ!アンタもアンタで、何、とろけた顔しちゃってんの!?」 ニーナははじき出された猫が必死に壁に爪を立てて訴えるように、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てた。 「わ、わたし、とろけてる?」 しかし彼女の恍惚とした顔は、新名を少なからず煽ったらしい。新名の喉を生唾が落ちていくのを、嵐は新名の息遣いから感じ取った。 本当は、このまま彼女と二人きりの時間を過ごしたかったが、新名を放り出せば、彼女は新名を庇うだろう。仕方なく、というとおかしな感じだが、嵐は新名に向かってぴしゃりと言い放った。 「俺が先。おまえは後」 それでいいな、と彼女にも念を押す。 「ん?うん?何が?」 きょとんとした彼女に、嵐はこちらもきっぱりと断言した。 「スキンシップの時間。いつもとおんなじ、交替で」 「あ……、うん、そうだね、分かった」 「はぁっ!?なにそれ!嵐さん、ゴーイン!アンタも『分かった』じゃないデショ!?」 新名の声は半ば裏返っていた。 しかしながら、嵐を無理やりにでも彼女から引き剥がさなかったということは、新名にも下心らしきものは渦巻いているのかもしれない。 「うるさい。先輩命令だ」 「キョーボー!断固反対!」 「何だよ。先輩の命令が聞けないってのか」 「狩りすんのに先輩も後輩もないっしょ!」 「狩りじゃない。縦社会だ」 果てしなく言い合いを続けそうな嵐と新名に、衣服を弛ませた彼女は最初こそおたおたと二人を見やっていたが、その内に諦めたのか、「もうっ!」と高らかに声を放った。 「こらっ!喧嘩しないのー!!」 結果、どうなったかというと、簡潔に言ってしまえば、三人デートの帰り道と同じように、嵐と新名が交替で彼女をスキンシップを取ることになった。 持ち時間は、それぞれ5分ずつ。嵐が先に触れたから、今度は新名の番だ。新名はそろそろと彼女に手を伸ばしたが、既に嵐によって緊張を解されていた彼女は、するりと新名の脇から背中へ手を滑り込ませた。 「わっ!?」 思いっきり反論したまではよかったものの、嵐の相手を射抜くような目の前で、自分は一体どうすればいいのか分からないといったように、新名は彼女にされるがままだった。 だが、そんな新名を励ますように彼女が新名に触れるのが、嵐は嫌だった。嵐は彼女から新名を引っぺがしたいのをじっと堪えた。そして5分過ぎたところで、「新名、変われ」と威圧的に命じた。 彼女の肌の感触を惜しむようにしぶしぶ彼女から離れた新名から彼女をかっさらうようにして、嵐は彼女を押し倒した。 ついさっき、いいところまでいっていたのに、お預けをくらって、頭に血が上っていたのかもしれない。 それは、大型犬が興奮のあまりご主人様に飛びかかるのに似ていた。嵐は彼女の唇を塞ぐと、彼女の衣服の裾に右手を差し入れた。 持ち時間は限られている、その思いが嵐を急かした。嵐は続いて彼女の下半身に左手を伸ばし、彼女の下着をずらしていった。新名が慌てた声をあげたような気がしたが、そちらに意識は回らなかった。嵐は躊躇うことなく彼女の衣服をはぎ取り、彼女の胸にかぶりつく傍ら、人差し指と中指で彼女の足の付け根を弄った。 嵐の5分が過ぎた。 新名の抗議に押し切られて、嵐は彼女から離れた。どちらかと言えば攻撃的に彼女を欲する嵐とは打って変わって、新名はやはり壊れものを扱うかのように、大事そうに彼女に触れた。性急な嵐の求愛とは裏腹、探るような新名の手つきに、かえって焦らされるのだろう。彼女は嵐に触れられているときとは異なる、生ぬるい嬌声を上げて頻繁に嘶いた。 そうして緩急つけて二人に愛されている内に、彼女も体が疼いてきたらしかった。 次に嵐の番になったとき、彼女は肌蹴た嵐の体に触れた。猛々しくいきり立った尤物を彼女の手にあてがってみると、彼女は抗うことなく五本の指を嵐のそれに這わせた。 「ちょっ!?嵐さん、そこまですんの!?」 きゃんきゃんとうるさい新名を尻目に、「そのまま、上下だ」と嵐は彼女に指示した。 彼女は覚束ない手つきではあったが、嵐のそれを手でしごき始めた。 「こ、こう?」 上目遣いで彼女に見つめられながら、自らの根に触れられるのは、たまらなく胸が高鳴った。 「そう。めちゃめちゃ気持ちいい……」 嵐は夢中になって彼女のいたるところに口付けた。 彼女の手の動きに合わせて腰を揺らしてみる。すると、頭がかち割れるような痺れが生まれた。 「嵐くん……、かたいね……」 彼女がハァッと艶かしい吐息を落とした。頬を紅潮させて荒い息を繰り返す彼女の顔を新名には見せたくなくて、嵐は新名から彼女を隠す姿勢で、彼女の耳元で囁いた。 「おまえのせいだ。おまえ、すごく色っぽい顔してる……。たまんねー」 嵐は、ちゅるっと音を立てて、彼女の耳たぶを吸い上げた。 「は……ぁんっ!」 反射的に、彼女は嵐の根を強く握った。 彼女も感じたのだと分かったからだろう、刹那、堪らず、嵐は精を噴出した。 やばい、と思ったのも束の間、嵐の根の先端からは、数回にわたって、白濁とした液体が勢いよく彼女の手に飛び散った。 「あれ……?」 彼女は吃驚したようであったが、依然として目をとろんとさせていた。 一方で、新名はふくれっ面だった。 「もういいっしょ?嵐さん」 無愛想に言って、新名は嵐をねめつけた。 そのとき初めて嵐は気づいたのだが、嵐の持ち時間の5分はとうに過ぎていた。 先輩に気兼ねしたのか、あるいは男女が睦んでいるのを見るのに集中していたのか、新名は嵐がとりあえず精を吐き出すまで待ってくれていたようだ。 嵐は大人しく引き下がった。 「分かったよ」 「今度はオレね?」 快楽さめやらぬ嵐の隣で、新名は彼女に軽く口づけた。 「オレのも、お願いしていい?」 新名は彼女の手―嵐の液体が付着していない方の―を取って、自らの逸物に触れさせた。 「あ、うん……」 彼女は頷き、嵐の目の前で、新名の根を愛撫し始めた。 彼女に負けず劣らず、新名は熱っぽい息を吐いて、悦びにわなないた。 「ニーナ……、ピクピクしてる……」 彼女の手は可愛いものを愛玩するように、優しく、新名を高みへ押し上げた。 「ス、スゲー……、ヤッベェ、気持ちいい……」 「気持ちいいの?ニーナ……」 「うん、いい……」 彼女が他の男の根を握っているのを目の当たりにするのは、嵐としては非常に腹立たしかった。 だが、彼女はそんな姿さえも扇情的で、一度は精を吐き出したというのに、嵐の根は再び起き上がろうとしていた。 程なく、新名も彼女の手によって頂きに導かれた。 声にならない声を発して、新名は震えた。彼女のもう片方の手も、精液まみれになった。 「ゴメン……、全部出しちまった……」 「ううん、いいよ」 彼女と新名が甘酸っぱいやり取りを交わしている間も、嵐の情欲はとどまることを知らなかった。 「もういいだろ、新名」 「えっ?」 新名が快楽に呆けて息を切らしているのをいいことに、嵐は彼女の上に覆いかぶさった。 「ちょ、嵐さん!まさか……!」 「その、まさか」、嵐は新名に向かって口端を上げると、彼女に向かって「もっかいな」と微笑みかけた。 彼女は、次に嵐が何をしようとしているか察したようで、苦笑を零した。 彼女と新名の言葉が重なり合う。 「やっぱり……犬と猫」「嵐さん、さかりすぎ!」 そんな風に、その夜、嵐と新名は代わる代わる彼女との時間を満喫した。 るいあさんへ
(2010/11/9 Asa) |