微 熱


日頃の無理がたたって、彼女は一週間あたり前から倒れてしまった。
そのおかげで学校を暫く休む羽目に陥っている。
今は高校三年生で勉強にも大切な時期だけに、あまり休みたくはなかったのだが、
歩こうとしてもすぐ倒れてしまったり、声が全くでなかったりと、到底学校に行ける状態ではなかった。
ひどいときは全くの昏睡状態で、日にちの感覚も時間の感覚も奪い取られて、
ただただ眠り続けることしか出来なかった。

しかし一週間もたっぷりと横になっていると、病も少し峠を越えて、随分楽になっていた。
そろそろ学校に行きたいなとも思うのだが、まだ安静が必要だと家族に言われ、しぶしぶ休む。
今日は身体の具合も大分いいため、部屋には暖房を入れ、加湿器を存分に焚いた上で、
洗面器にたっぷりとはった湯にタオルをひたして身体を拭く。
ここ数日間、大好きな入浴ができなかった分、念入りに拭いた。
拭き終わったころには、随分心地がよくなっていて、彼女はそれを片付けて再び眠りに落ちた……。


氷室はちらりと助手席に目をやる。
時々自分に声をかけては、その席にちょこんと座る彼女。
自分が連れ出す「社会見学」に、微笑みながらうなづいて車に乗り込む彼女。
この一週間、そんな彼女に会っていない。
今その席を占めているのは、彼女が学校に来なかった日数分の宿題の山だった。




♪♪♪
少しためらいながら、ドアのチャイムを押す。
家庭訪問は慣れているはずで、どんなときにもこんな緊張感を感じることなどそうそうない。
しかし、生徒というよりは、自分の愛しい対象である彼女の家となると、やはり少しばかり心がうごめく。
勿論彼女の両親にも会うわけで、すでに彼女と深い関係をもっていた氷室にとっては、
どこか後ろめたい気持ちがあるのも事実だった。

「はいは〜い。」
しかしドアからちょこんと顔を出したのは、彼女の弟だった。
彼女に本当にそっくりで、とても愛らしい。
違うところといえば、わりとおっとりした彼女に対して、弟の方はてきぱきしているところくらいだろうか。

「おっ、氷室先生。」
「…コホン、本日は見舞い、いや、たまっている宿題を渡しに来たのだが…。」
氷室はもごもご答える。
最初から何をどう言うか、心の準備をしてきたはずなのに、いざとなるとろれつが回らない。
しかし尽はそんなことには気付かないで、にんまり笑って言う。
「あ〜、いいですよ、入ってください。もう、ねえちゃん、かなり具合いいみたいだから。」
「いや、しかし…。」
「大丈夫、一週間も家にいてすごく機嫌が悪いんだから。
 先生に上がってもらったら、ねえちゃんだって喜ぶよ。」
「…そ、そうか。では…。」
足があまり思うように進まないが、彼女に会えるのは氷室はとても嬉しかった。
尽に勧められるまま、玄関の方へと氷室は吸い寄せられて行く。


「その、ご両親は…。」
玄関に上がって、尽の用意したスリッパをはいて、氷室は緊張の表情を浮かべて尽に尋ねた。
「あ?両親?今、いないよ?二人とも共働きだから。」
「…では、やはり私は、ここで…。」
さすがに両親がいないときに、彼女の部屋にあがることは罪悪感を伴うものだった。
しかしそんな氷室に、尽は全く動じることなく答える。
「大丈夫だよ、先生なんだから。それに先生がいてくれたら、オレ、遊びにいけるし。」
「…君は病人と客を残して、出かけるのか?」
「だって、ねえちゃんが病気だったせいで、オレちっとも出かけられなかったんだぜ?
 ここ一週間で、何人ガールフレンドを失ったか。」
あっけらかんと答える尽に、氷室は少し言葉を失う。
……、これが彼女の弟…。あまりの兄弟の落差に氷室はただただ言葉を失う。

部屋の階段を上ってすぐのところにドアがある。
どうやらそこが彼女の部屋らしい。
尽がいきなりドアを開けた。
氷室はその尽の行動に目を見張りながらも、とりあえず開いていた扉に小さくノックした。
すると部屋の中から大きな掠れた声が飛ぶ。
「もう!部屋に入るときは、ノックしてっていつも言ってるでしょ!!」

彼女の声だ。
氷室は自分の顔が少し緩むのを感じた。

彼女の声を聞けただけで、こんなに心が躍るなんて。
今までの自分には考えられない心の機微に少し驚きながら、氷室は息を深く吸い込んで、声を吐く。
「ノックはした、入るぞ。」


部屋に入ると、彼女がベッドから少し身を起こして、驚いた様子でこちらを見ていた。
暖房と加湿器が入れられている部屋は、どことなく和風の雰囲気を漂わせていて、
品のいい大きな机が、まるで文豪のそれのように置いてある。
「せ、先生…。」

彼女の大きな瞳が弱く潤んだ。
やはり少しやつれたようだが、いつもよりはかなげで弱弱しい瞳の光は、
少し妖しげで氷室をぞくっとさせる。
「それじゃ、ごゆっくり〜、先生、あとよろしく!!」
にんまり笑って尽が部屋を出て行く。
その後程なくして、玄関のドアが勢いよく閉まる音が一階から響いてきた。
氷室は浅くため息をついた。
こんなところで、彼女と二人きりになろうものなら、自分の理性にどれくらい歯止めがきくだろうか…。
彼女と関係を持つようになってから、氷室は駆られる性欲を抑える理性が薄れてしまっていた。

気まずい雰囲気が部屋に漂う。
氷室に自分の素の状態を見られているのが恥ずかしいのか、彼女はうつむいたまま、何も言わない。
とりあえず、氷室は宿題の山を渡す。
困ったように笑う彼女。
何だか宿題の話をしているうちに、気まずい雰囲気は一掃されて、いつもの二人に戻りつつあった。
「これ、期限はいつまでですか?」
「…なるべく早くだ。」
なるべく早く君に会いたいから。氷室は心の中でこうつぶやく。
彼女に会うまでは、こんな風に、心に秘めた思いを大事につぶやくことなどなかった。
今更ながら、自分がどれだけ彼女にのめりこんでいるかよく分かる。


彼女は失笑する。
「はあい。」
まだ喉が完治していないのか、掠れている声。
それはハスキーで、とても色っぽかった。
…私は、何を…。
氷室が一人で顔を赤くしていると、彼女が布団からのそっと出てきて、ドアの方へ向かう。
「私、何か飲み物でも持ってくるように、尽に言ってきます。」
そう言って、ベッドを離れようとした瞬間、彼女は大きくよろめいた。
「!!」
氷室は一瞬の隙もなく、彼女を支えた。
「…す、すみません…。」

彼女は顔を赤らめて氷室を見上げた。
「…まったく、病人だろう、君は。そんなこと気にしなくてよろしい。
 …それに、尽くんなら、出かけた。ガールフレンドに会いに行くそうだ。」
「え!…全く、あの子は…。」
彼女は氷室の腕の中で、少し顔をしかめながらも、おとなしくおさまっている。
彼女の寝巻きは大きく胸が開いていて、氷室は思わずどきっとする。
自分と彼女の身長差のために、上から彼女の胸の谷間がはっきりと目に入るのだった。


氷室は、目のやり場に困ったせいもあって、彼女をぎゅっと抱きしめた。

彼女もそういった抱擁に慣れているのか、逆らうことなくそれに甘んじている。
「…会いたかった。」
氷室の声が低く小さく響くと、彼女は氷室の胸に顔をゆっくりとうずめて「はい」と答えた。
氷室は彼女の髪をそろそろと撫でる。
まだ多少熱があるのだろう、彼女の身体は普段より温かくて、氷室の脳髄と背筋を刺激した。

暫く彼女を抱きしめていたが、さすがに病人を床から引き離しているわけにもいかない。
名残惜しいが、氷室は彼女を少し引き離した。
「しかし…、君は喉を痛めているのだろう。そんなに首を開けた寝巻きを着ていてはいけない。」
氷室が彼女を見つめながら真顔で言うと、彼女は笑った。
「そうですね…、気がつきませんでした。」
その微笑のあまりの愛おしさに、氷室は彼女の唇にそっと口を寄せる。


彼女も抗うことなく、氷室の口を受け入れる。
氷室の舌が、いつもより熱を帯びた彼女の舌にそっと絡んで、二人の舌はお互いを静かに求め合う。
氷室は、そこで彼女が自分の唇に甘んじているだけならば、理性を失うことなどなかっただろう。
もし、彼女が氷室に抱かれながら、艶めいた掠れた声をあげ、氷室の腰に手を回し、
一言「先生、来てくれて嬉しい…」と甘い声で囁かなければ。


氷室は気がつけば、彼女を両膝から持ち上げ、ぐっと抱き上げていた。

彼女は抱き上げられて少し驚いたようだったが、にっこり笑って氷室の首に顔をもたげておとなしくしている。
氷室は彼女の首筋に軽く口付けしながら、静かに彼女をベッドに横たえた。
もう理性という二文字は頭の中から消えうせていた。
目の前に横たわる愛しい女性が欲しくて、自分の雄の本能がアクセルを踏む。
彼女の上から、唇を乗せる形でおおいかぶさる。

彼女は再び掠れた声をあげ、氷室の腰に手を回した。
「こんなふうに…、首を外気にさらしては、いけない…。」
氷室はそうつぶやきながら、彼女の首の周りを何度も唇で辿った。

彼女の首の周りには、小さな赤いチョーカーが浮かび上がる。
「…ん、んっ……。」
声が掠れているせいで、いつもよりあがる声も、いっそう艶めかしい。
身体も普段より熱く火照って、氷室を誘惑する。

「せ、ん、せ…。」
寝巻きの中に氷室が手を入れると、すぐに下着をまとっていない彼女の胸にたどり着いた。
やわらかな膨らみがしっとりと氷室の手に吸い付いてくる。

彼女は息を荒げながら、氷室に胸を触れられる喜びに身を投じていた。
「…そんな風に呼吸をすると、喉によくないぞ…。」
氷室は耳元で少し意地悪く言うと、自分のネクタイを片手でゆるめてするりと外す。
そして快感にうもれて、目を細めている彼女の口の辺りをネクタイで巻く。

「!!」
「…マスク代わりだ。」
にやりと笑って、氷室は痛くない程度にネクタイを縛る。
ネクタイで口を封じられて、彼女の顔は更に紅潮する。
氷室の手がするすると肌を動くたびに、彼女の身体は艶めかしくのけぞって、とても色っぽかった。
氷室は下寝巻きに手をかけた。
ゆっくりとじらすように、下寝巻きを剥ぎ取っていく。

彼女は声もあげられずに、ただただ身体を痙攣させるように動かす。
寝巻きを剥ぎ取ると、銀色に糸を引いている液体が、彼女の太もものほうまでつやっぽく垂れていた。

「…発熱のせいで、汗をかいているようだな…。」
氷室はそう言って、その銀の潤った液体を指で優しくさすり、それが絡みついた自分の指を舐めた。
「…汗ではないな…。」

彼女の顔が真っ赤になる。
氷室はそんな彼女の反応を見るのがとても好きだった。
確かに、彼女に触れるまでは色々と悩んでしまうことも多々あるのだが、
一度彼女に触れると、とめどもなく彼女を愛したくて、
時には壊してしまいたい欲求に駆られることもあるくらいだった。

氷室は彼女の足を大きく開いて、ゆっくりとそこに顔をうずめる。
「!!」

彼女は声を出すことも出来ずに、ただただ氷室の舌の動きにうずもれていくだけだった。
彼女のその部分はまだ熟れきってはいなかったが、
氷室を何度も受け入れているためか、一度あふれだしたら止まらない。
氷室はそれを知っていながら、じらしながら舌を動かす。
液体同士の触れる音が艶めかしく部屋に響き渡っている。

彼女が声を出せないせいか、その音はいっそう自身を主張しているかのように大きく聞こえた。

彼女にもこの音が届いているだろう。
そのせいか、心なしか普段よりも感度がいい。
氷室はゆっくりと舌を彼女の中へと挿入する。

彼女の腰が跳ね上がる。
氷室の舌にじらされて、こらえきれないように彼女の腰が揺れる。
長く切れ上がった目で、彼女の顔をちらりと見ると、
口元のネクタイが湿っていて、透明の液体が彼女の口角からこぼれている。


氷室はそれを見て、思わずにやりと笑う。
「君の口からは、よだればかりだ…。」

彼女は目を見開いて、恥ずかしそうにまた目を閉じた。
目にはうっすら涙が浮かぶ。
あまりに恥ずかしすぎるのかもしれなかった。
氷室はそんな彼女に再び愛しさを覚えて、上半身をずらして彼女の首筋を唇で愛撫する。
彼女の身体は、じっとりと汗が浮かび上がるほど、熱を帯びていた。
氷室ももうこれ以上、彼女をからかうほど余裕ではいられなかった。
自分自身が、もうこらえきれないくらい膨れ上がっていて、
このままいくと筋肉が膨張して破裂しそうなくらいにまでなっていた。
ゆっくりとそれに刺激を与えないように、取り出し、彼女の入り口に当ててみた。
すると彼女は再度のけぞって、ネクタイの向こうからは熱い息がこぼれる。

彼女の入り口は熱かった。
熱のせいもあるのだろう、普段よりも温度を高くして、氷室が来るのを待っているようだ。
氷室はそれに応じるように、静かに彼女の中へ入っていく。


「!!!」
彼女の身体が激しく揺れる。
氷室も快楽に答えるように、深く息をついた。

彼女の中はものすごく熱くて、入っただけでもう我慢が出来なさそうだった。
緩やかな律動から初めて、段々スピードを上げていく。

彼女の動きと同調しつつ、氷室は彼女の熱にうなされながら、
律動を何度かくりかえしているうちに高みへ押し上げられていく。
「んっ…!!」
氷室は声をかみしめて、彼女の更に奥の方へとそれを突いた。
その瞬間、彼女の熱に負けないくらい熱い液体が、熱で潤っている彼女の部分へと放たれた…。




「…その、すまなかったな、…まるでがっついたみたいに、なってしまって…。」

彼女の口からネクタイを外しながら、氷室は声を抑えてそう言った。
「…いえ…。」

彼女も顔を赤らめながら、うつむいている。
「それより、先生…、ごめんなさい、ネクタイ…。」
氷室のネクタイは、彼女の唾液で濡れてしまっていた。
それを見て氷室は、不敵に笑う。
「これで喉を更に痛めることはないだろう。…君も喜んでいたようだったしな。」
「そ、そんな…、そんなことないですよう…。」
更に顔を赤らめて彼女は顔をもたげる。
氷室はそんな彼女の顔をくっと人指し指で持ち上げ、再び口付けをする。
すると彼女の熱は心なしか下がっている気がして、氷室は彼女の額に自分の額をつけてみた。

やはり…。
熱は完全に下がっていた。
「先生?」
「どうやら、熱は下がったようだぞ。」
「え!本当ですか。」
そう言った彼女の耳元に、氷室は顔を持っていく。
再び彼女の顔が血で濡れたように赤くなった。
氷室が囁いた言葉は…。
「汗をかけば熱は下がるものだ。…君は汗をかきすぎたようだからな。」