高 熱


頭がクラクラする。
まったく、私としたことが…。
氷室は普段の健康管理には、人一倍気を使っているつもりだった。
その氷室が、今こうやって高熱を出して、ベッドの中で横になっている。
風邪を引いたとき、一人暮らしは本当につらい。
食事の世話も勿論のことなのだが、とても心細くなるのである。
小さいころから両親が不在がちだった氷室にとってみれば、そんなことは今更気に病むことでもないことのように思われたが、氷室は彼女と出会ってから「寂しい」という感情に対して繊細になっていた。
そして今こそ思う。
「寂しい」と。



「今日は氷室先生がお休みなので、数学の授業は先生が指示されたところの問題をレポートにして授業後提出するように、とのことだ。」
ホームルームで副担任がそう告げると、異様なざわめきが教室に広がる。
「あいつでも風邪引くのか?」
「オイル切れじゃねえの。」
「いっつも氷みたいだから、自分の冷たさで風邪引いてたりして。」
悪気はないのだろうが、こと氷室の異状に関しては、生徒の殆どが好奇心を示す。
そんな中で彼女だけが、少し青ざめた顔をしていた。
どうしよう、先生、私の風邪がうつっちゃったんだ…。
三日前、氷室は彼女のお見舞いのために、わざわざ彼女の家へ足を運んでくれた。
ずっと部屋で一人ぼっちで退屈していた彼女のために。
ずっとずっと氷室に会いたくて、氷室に触れたくて寂しい思いをしていた彼女のために。
そのとき、自分の風邪がうつってしまったに違いない。
どんな理由であれ、彼女は氷室が見舞いに来てくれた後、今までの病気が嘘のように回復し、今こうやって学校に来られる様になっていた。

彼女は気がつけば、氷室のマンションの前にやってきていた。
静かな住宅街の、高層マンションに氷室は一人で住んでいた。
そこは、とても立派で無駄がない、いかにも氷室の好みそうな建物だった。
彼女はマンションをぐっと見上げる。
空に手が届きそうな位置の上層の部屋に、氷室は住んでいる。
ここから見上げても、氷室の様子は分からない。
何度か氷室の部屋にあげてもらったことはあるが、一人で氷室を訪ねてきたことなど無かった。
このマンションはセキュリティもしっかりしているので、彼女が勝手に入ることは出来ない。
それは重々承知のことだった。
しかし彼女はいてもたってもいられなかった。
自分のせいで、先生が苦しんでたらどうしよう…。
氷室が出した課題をやっていた時間以外は、今日は殆ど授業に身が入らなかった。
彼女はスーパーの袋の取っ手をぎゅっと握る。
先生に電話してみようか。
でもきっと今は寝ておられるだろうし…。
何度も何度も迷う。
ただ、氷室の身を心配する気持ちは彼女の中で一貫していた。
彼女は思い切って、携帯をとりだして、ダイアルボタンを押した。
♪♪♪
数回のコールが鳴り響く。
彼女の不安はいっそう強くなる。
やっぱりやめた方がよかったかな…。先生、絶対寝てる…。
半分泣きたくなったときに、電話口から愛しい声が返ってきた。
「氷室だ、…どうした。」
携帯の着信履歴で、彼女からの電話だと分かっていたようで、氷室の声は少しがらがらしていたが、とてもその音声は優しいものだった。
「あ、あの、先生…、お見舞いに来たんですけど…。」
「何?」
「あ、あの、すみません…、でも、あの、とても心配で、差し入れを持ってきたんですけど、お部屋まで持って行ってもよろしいでしょうか?」
「…今、どこにいる。」
彼女は氷室に怒られるか呆れられるかのどちらかと思っていた。
しかし、意外にも氷室の声は優しい色を帯びたまま、彼女を気遣う様子すら感じられた。
彼女はその声に、少し安堵して答える。
「…はい、実は、もう、先生のマンションの前まで来ているんですけど、その、あの、入れなくて…。」
そう言うと、氷室のかすかな笑い声が電話口の向こうから聞こえた。
「そうだろうな。ロビーに入ってインターホンを押しなさい。開けるから。」
「あ、はい。」



彼女は携帯を持ったまま、小走りにロビーの中へ入る。
ロビーもとても広くて、小奇麗で、彼女は少し場違いな雰囲気を感じながら、インターホンへと向かった。
「押します。」
「ああ。」
ブーっという低い音が響いて、インターホンの向こうから再び氷室の声が聞こえた。
「入りなさい。」
そう氷室の声が聞こえたかと思うと、ロビーと住居者たちの住まいを遮っていた硝子が、彼女のために道を開いてくれた。
彼女は恐縮しながら、急いでその硝子の重い扉の間を駆け抜けた。
氷室の部屋までたどり着くと、彼女がドアに近づく前に、ドアが開き、氷室が顔を出した。
少し赤らんだ顔をしている氷室は、寝巻きの上にローブを着ていた。
彼女を見たためか、氷室のやつれた顔もほころんでいる。
「入りなさい。」
またしてもそう言って、氷室は彼女を招き入れた。

彼女は恐縮しながら、「お邪魔します」と小さな声でつぶやいて、氷室の部屋の中に入った。
風邪をひいているからだろう、氷室の部屋はどことなく病人の香りがした。
しかし風邪をひいていても彼の部屋は相変わらず整然としていて、とても病人のそれとは思えなかった。
「座ってなさい。コーヒーでも淹れよう。」
「あ!そんな、先生!いいんです、私がお見舞いに来たんですから、先生は休んでてください。」
「しかし。」
「いいんです、大丈夫です。何か食べましたか?」
「…ライ…。」
「…いつもの食事しかしてないんですね。」
氷室が言葉を吐く前に、彼女がそう言ってため息をついた。
「ダメですよ、先生。風邪の時にはそれに即したものを食べないと。
 何か栄養のあって消化のいいものを作っておいておきますから、私が帰った後、温めて食べてくださいね。」
彼女はスーパーの袋から材料を取り出しながら、一気にそう言った。
「…もう帰るのか?」
心なしか氷室が寂しそうな表情をしているように思われた。
彼女はその姿に心が揺らぐ。
「あの、あまり長居したら、先生、ゆっくり休めないでしょう?」
「…ああ、そうだな。」
氷室は深く息を吐きながらそう言った。
少しまだだるいのだろう。
いつもは鋭い眼差しも、今日だけはぼんやりしている。
彼女はそれを見てドキッとする。
初めて見る。
いつもは完璧という二文字を背中に背負った氷室が、こんな風に弱っている姿なんて。
彼女は、彼を守ってあげたいような母性本能を大いに刺激されてしまって、しどろもどろになりながら言う。
「あ、あの、もしよろしかったら、少しだけ先生の看病をして、先生がぐっすりと寝られたら、帰ります。」
「…そうか。」
そう言った氷室の顔はどことなくけだるげながらも、喜んでいるように見えた。

彼女はキッチンでおかゆを作った。
ほうれん草と鶏肉のおかゆ。
病人にはあんまり手の込んだ食事よりは、シンプルで栄養がたっぷりあるものの方がいい。
慣れた手つきで、キッチンをせわしなく動く。
そんな彼女が心配なのか、何度も氷室はキッチンをのぞく。
「先生、寝ててくださいよ。来た意味ないじゃないですか。」
「…いや、君が心配だからな。」
「大丈夫ですよ、それに動いたら、治るものも治りませんよ?体力消耗しちゃうんですから。」
「それなら大丈夫だ、先ほど君が持ってきてくれた栄養剤を飲んでおいたから。」
「え!!」
彼女は驚いて声を上げた。
「せ、先生、あれは先生が病みあがりに学校に出てこられるときのことを考えて買ったものなんですよ?今飲んじゃったら寝られないじゃないですか!」
「…いや、しかし。」
「…もう、先生ったら!ちゃんと寝ててください!」
彼女の困ったような微笑に負けて、氷室はしずしずと床に戻る。
しかし落ち着くことも出来なかった。
先ほど口にした栄養剤のお陰で、何となく滋養補給ができた心地がしたし、また彼女がいては、そわそわしてしまって、そうそう寝てなどいられなかったのだ。
彼女の作ったおかゆは本当に美味しかった。
シンプルな味付けだったが、とてもいい香りがしたし、優しい味がして、それを口にするとほっと心が落ち着くような、そんな安らぎを氷室にもたらしてくれた。
彼女はにこにこと氷室が食事をするのを見ている。
氷室はその彼女の瞳に、心から満足を感じながら、一口一口を丁寧に口に運んだ。
食事をすませて、薬を飲み、氷室は強制的にベッドに寝させられた。
勿論風邪をひいて身体は、おかしくなるほどだるいのだが、同時に、それでも眠ってしまいたくなかった。
眠ってしまったら、また一人になってしまうような気がして。
今の氷室は直接彼女には言えないまでも、彼女が来てくれた事で寂しさなど微塵も感じていなかったのだ。
だから氷室はベッドのそばで「眠るまでそばにいます」と言って、氷室の手を握っている彼女の手を、思いっきり強く握る。
自分が寝てしまっても、彼女が帰らないでいて欲しいと心からそう思いながら。


氷室は寝入ったようだった。
整った寝息が彼女の耳に届く。
彼女は氷室の寝顔をじっと見る。
端正な顔立ち。眼鏡を外したら、氷室は少しだけちがった雰囲気をかもしだす。
身体を重ね合わせるときしか見ることの出来ないこの顔。
そのときの氷室の顔は、いつもの教師の顔から、なんていうのだろう、雄?
そう、雄のような顔になって、彼女をじっと見るのだ。
その氷室の顔を思い出して、彼女はぞくっとした。
少し身体をのけぞらせてしまった彼女を、まだつかんだままの氷室の手がとどめる。
寝入っても、彼女の手を放そうとしない。
どれだけ自分が彼に愛されているか、彼女は痛いほど感じる。
ベッドの脇の小さな丸椅子から、身体をぐっと氷室に寄せて、そっと唇に近づく。
ちゅっ。
唇が触れる音がして、氷室の香りが彼女の鼻をくすぐった。
一度触れると、何度も触れたくなる。
氷室の寝息は乱れないままだ。
ぐっすり眠っているようだった。

彼女は普段なら恥ずかしくて絶対に出来ないことでも、今なら出来てしまいそうな気がした。
氷室と手をつないだまま、唇を何度も重ねる。
軽く触れていただけの口付けが、徐々に深く、重くなっていく。
氷室の唇の中へそっと入って、舌を這わせてみる。
いつも氷室が彼女にしていることだ。
うまく舌が使えない。
ぎこちなく動く舌。それでも舌で氷室に触れると、体中がカッとしてきて、何だかむずむずする。
彼女は何度も舌で氷室を求める。
先生、好き、先生、好き、先生、好き、先生…。
エンドレスで流れる、自分の言葉にうなされるように、氷室の唾液を味わう。

ダメ、これ以上してると…。
自分が何だかとてもいやらしい生き物のような気がして、一瞬彼女は躊躇したが、すでにそれをやめてしまうことが出来ない状況だった。
「んっ。」
小さく彼女は声を上げた。
相変わらず手はつながれている。
もやもやした熱に促されて、いつのまにか彼女は布団の上から、氷室の上に覆いかぶさっていた。
もう何が何だか分からないまま、口付けを繰り返す。
すると、這わせていた舌が当たった彼の舌が、かすかに動いた。

彼女はふっと我に返り、氷室の唇から身体を離した。
銀色の滴の糸が氷室と彼女を心細げにつないでいた。
下を見ると、氷室が目をうっすら開けて彼女を見ていた。
「…君はいつまでそうやっているつもりだ?」
「せ、先生!起きてたんですか…!!」
彼女は声を上ずらせながら、身体をじりじりと引かせる。
しかし氷室の手は、彼女の手を更に強く引き寄せる。
「…少し夢うつつになりかけたときに、君の唇が触れて…目が覚めてしまった。…しかし何となく目を開く機会も失ってしまったのだ。」
「ひ、ひどいですよう。」
彼女は穴があったら本当に入ってしまいたいほど、恥ずかしかった。
しかし氷室の方も何だか恥ずかしそうなように見えた。
「…ひどいのはどっちだ。」
「…え?」
彼女が首を少しもたげた瞬間、氷室は布団をばっとめくり、彼女をすばやく包み込んだ。
すぐ目の前に氷室の顔がある。
髪の毛は、重力に伴って、横に流れている。
二人は布団の中で、左右に並んだ状態で見詰め合っていた。
「せ、先生…。」
「あまり男をその気にさせるものではない。」
「あ、あの、そんなつもりじゃ……ふっ…。」

彼女から甘い声が洩れた。
氷室のもう片方の手が彼女の下着の中にするっと入っていて、秘められた場所を探る。
そこは、さっきから氷室を求め続けていた彼女のその部分は、すっかり熱く潤っていた。
「君は…口付けだけでこうなってしまうのか。」
低くて色っぽい声が、彼女の耳元でささやかれる。
布団は氷室の香りが深く染み込んでいて、五感全てが氷室に支配されているような気がした。
「あ、やっ。」
氷室の繊細な指が彼女の溝をなぞる。
その部分は、まるで川のように一筋の流れを生み出していた。
じらされるようになぞられて、彼女は自分の腰がまるで痙攣しているように動いてしまう感覚を覚えた。
「自分で動きたいのか?」
そう言って、氷室は指の動きを止めた。
「…好きなだけ動くがいい。」
彼女の下着を膝の辺りまで、氷室はずらした。
そう言われて、無意識のうちに彼女は布団の中で氷室に上乗りになっていた。
彼女はまるで氷室の熱のある指に自分の熱をこすりつけるように、腰を前後に揺らす。
恥ずかしさと、自分が好きなように感じられる喜びで、彼女はぼうっとなりながら腰を動かし続ける。
液体の艶めかしい音が、彼女にまで届いて、彼女はその音にも興奮する。
「いやあっ。」
激しく指をこすりつけていると、徐々に氷室の指が欲しくなる。
声が洩れてしまうのにも彼女は気付かない。
氷室はそんな彼女を見て、口角がずっとあがったままだった。

彼女を欲しくなることなら、24時間中ありうることだった。
しかし彼女の方からこんな風に求められることなど、そうそうあることではない。
それも、思っていたよりもずっと激しい彼女に、氷室は自分が病人であることもすっかり忘れていた。

「あ…。」
彼女が絶頂寸前の声をあげる。
彼女は絶頂の前には必ず、ため息のような、静かなあえぎ声をあげる。
氷室は、まだ彼女の激しい姿を見たかった。
指をすっと離す。
「ふ…。」
指を離されて彼女は動きを止めた。
もうすぐ、目指すところはすぐそこにあるのに、そこで足止めをくらってしまって、戸惑っているようだった。
「や、意地悪…。」
うっすらと涙が目にたまる。
もう欲しくて欲しくて我慢が出来そうにないのに、どうしてこんなときに限って、この人は与えてくれないんだろう。
氷室は彼女の液体で、根元まで濡れそぼった指を、まるで猫がするように丹念に舐めていた。
そして彼女の非難にも答える気はさらさらなさそうだった。
彼女は、そんな氷室の様子を見て、少し悲しそうな表情をしたが、氷室に放してもらえない方ではない手で、自分が一番好きなものを探す。
そのものは自分が覚えているところにきちんとあった。
熱を持った氷室の身体の中でも、もっとも熱をおびた部分。
硬く、彼女に触れられるのを待っている。
彼女はじらすことも出来ないで、性急に触れた。
そして、ぐっと全体を握り、わずかに湿っている上の方の部分を親指で丁寧になぞった。
氷室から、深く熱のこもった息が彼女にかかる。

「先生だって…、熱いじゃないですか。」
彼女はそう言った。
しかし氷室はまたしても何も答えない。
「何で、答えてくれないんですか、先生…。」
潤んだ瞳で氷室を見つめながら、熱いそれに触れ続ける。
それがいっそう氷室を硬く湿らせる。
「意地悪…。」
彼女は震えるような声でそう言って、ぐっとそれを握って自分が今一番飢えているところへ促す。
お互いのあふれるような液体が、お互いを求め合っているかのように、それは殆ど抵抗なく彼女の中へするすると入った。
「あ、あ…。」
彼女は目を閉じた。
そんなふうに、欲しいものに満たされたことは初めての感覚だった。
身体を小刻みに震わせながら、空いている手で身体を支え、再び自分が望むままに身体を動かす。
愛しい人の熱を持った固体は、彼女のやわらかい肉に幾度もすりつけられる。
その感触は言いようのないほど、熱くて、彼女を満たしてくれた。
「スキ、これ、スキ…。」
彼女は熱にうなされるように、何度も繰り返してつぶやいた。
「…君の好きなようにするがいい。」
漸く氷室が口を開いた。
氷室の顔も、少しけだるげな様子で、快感に埋もれそうになっていた。
そんな氷室に許されて、彼女は思うが侭に、腰を揺らす。
上下に、前後に、円を描くように。
どんなことをしても、氷室のそれは彼女にぴったりと吸い付いたまま、彼女を刺激してくれた。
「ん!」
彼女は、先ほどとは違う波につきあげられ始める。
どんな喜びも彼女には愛しいものだったが、氷室とくっついたまま、促される高みは一番愛しかった。
彼女は更に激しく、しかし、氷室をじっくりと確かめるように動きつづける。

氷室はもうそろそろ限界だった。
彼女は自分が思っているよりずっとずっと自分を求めてくれて、そしてその愛しさに身を委ねて、今、高みへ昇ろうとしている。
今まで知らなかった彼女の艶めかしい部分。
激しい部分。
…雌の部分。
何もかもが氷室を刺激していた。
たとえ病魔が身体の中にいようとも、彼女がもたらしてくれる喜びに比べれば、些細なものだった。

しかし、正直、彼女が高みへ昇る前に、氷室の方が先に果ててしまいそうだった。
氷室は空いている手で彼女の腰をぐっとつかんで、彼女の動きを止める。
再び制止されて、彼女はまたしても悲しげな顔をした。
が、次の瞬間、「あ」とかすれるような声を上げた。
氷室に下から突かれたのだった。
氷室はリズム正しく、彼女の肉を突き続ける。
ぐちゃぐちゃという音が、大きく鳴り響く。
布団の中は、温度も湿度も高く、すでに熱帯と化していた。
「ん、ん…あ、あ!」

彼女は氷室に突かれて、支えていた手で身体を支えきれなくて、氷室の身体になだれ込む形で快感をむさぼる。
「あ…。」
何度か氷室に突かれて、熱い液体が自分の中へ勢いよく流れ込んだことをおぼろげに感じながら、彼女も果てた。



「…まったく、君は…。」
氷室は咳払いをして、恥ずかしそうに目を伏せる。
布団の中で、彼女と氷室は手と身体をつないだまま、熱い空間を共有していた。
「ご、ごめんなさい。本当に。先生はご病気なのに。」
「…かまわない。」
そう言って、氷室は彼女の髪を空いた手で撫でながら、ささやく。
「君に私の熱が少しでも伝わっていたらいいのだが。」
「え。」
「いや、その、私は、君を…愛している、ということだ。」
もごもごと短くそう言って、氷室は彼女の額に口付けた。
彼女は、幸せそうに目を細めて、かすかに笑う。
二人は甘い眠りに誘われ、安らかな世界へ静かに向かった……。