チョコレート・ミックス
「や…っ、ぁん…っ!コラ、がっつくな…!」
 岳人は甲高く叫んだ。その声は半分こそ怒りを含んだものであったが、あと半分は快楽に溶けそうな色をしていた。
「説得力ないですよ…。そんな感じてる声じゃ。」
 日吉は口角を上げ、組み敷いている岳人の頬に唇を寄せてちゅうっと吸い上げた。
 スラックスを取り払い、大きく開脚させた岳人の内股や足の付け根を、片方の手でくすぐるようになぞってゆく。もう片方の手は、シャツのはだけた岳人の胸部を愛撫した。
 感じやすい場所を次々と攻め立てられ、岳人は「だ、ダメっ…、あ、ぁん!」と、弓なりに背中をのけぞらせて嘶いた。開かれた足の付け根の中心部、ビクンビクンと脈打つ敏感な部分が天を向いてひくつく。
「こんなに勃てて…イヤラシイな、向日先輩は。」
 日吉は切れ長の瞳を更に細めて意地悪く笑った。自らもスラックスをずらし、下着越しでもはっきりそれと分かる猛った尤物を中から取り出す。岳人の目が自身に釘付けになるのを心地よく思いながら、日吉は岳人の根に己を添わせた。
「あ…ふ、ぅんっ…。」
 ヒクヒク蠢く岳人のそれはひどく熱かった。透明な先走りが根の先端から垂れ落ちる。
「お前…、も…ぅ、そんなになってんじゃん…。早く…いれろ…よっ…。」
 本当は我慢できないのは自分の方なのに、こういうギリギリのところでも先輩風を吹かせようと強がるところが、苛めたくなるというか、可愛いというか。表情を変えないで日吉は言った。
「誘ってきたのは向日先輩の方でしょう。もらったチョコレート分けろ、なんて口実つくって。…困りますよ、三日前にしたばっかりじゃないですか。」
 腰をずらして、先っぽを岳人の小さな紅色の入り口にあてがう。つんつんと硬いそれで突くと、「あ、ひぁん…っ」と岳人は臀部をよじって悶えた。

 岳人と所謂「こういう」関係になってどれくらい経つだろうか。
 男子なのに、女子よりもきめ細やかそうな肌と、くりっとした大きな瞳、小憎たらしい意地っ張りな口ぶりが、どことなく「下克上」を掲げる日吉の攻撃心をそそった。
 岳人も岳人で、いつから日吉に目をつけていたのかは知らないが、運動部特有の上下関係に馴染まない日吉を、屈させたいとでも思ったのだろう。部長の跡部や大人びた忍足といつも一緒にいる分、後輩には「いばりたい」岳人が一匹狼的な日吉にちょっかいをかけたのは、自然な流れであったのかもしれない。

 しかし、最初は戯れで始めたことに、いつしか二人共に嵌まっていった。
 とりわけ岳人はその傾向が著しく、日吉を支配するつもりが、彼に突貫される快楽に目覚めてしまい、今では、なんだかんだと表向きの理由をつけては、日吉に足を開くのが常となってしまっていた。
 今日も、聖なるバレンタインデー、他のテニス部員たちに比べて、高価なものよりむしろ「可愛い」クッキーやチョコレートをもらうことの多い岳人は、日吉がたくさんもらった「本命っぽいチョコ」を寄越せと、彼の部屋に上がりこんだのだった。
 その割りに、やはりというべきか、チョコレートはそっちのけで、日吉が絡んでいくとすぐに体を火照らせ、日吉を求め始めた…というわけである。

 岳人が日吉の肩に腕を回して、自身の方へぐいと抱き寄せる。睨みつけるように目を三角にして、岳人は低く囁いた。
「焦らすな。」
「別に焦らしているつもりはないんですけど。」
 激しく岳人の唇を奪い、舌を深く挿しいれる。口肉を蹂躙し、岳人の下方の吸引口を刺激する程度に日吉は腰を動かした。
「俺がこうしたいから、してるだけ。…もっとキスさせてくださいよ。」
「あ…、ふっ…。」
 日吉に酸素を奪われ、岳人の目がトロンとし出した。
 同じくシャツのはだけた日吉の腹部に、あたかも水をたっぷり含ませた筆先をこすり付けたかの如く、岳人の濡れそぼった蜜が付着する。先走りなのか、漏らしているのか、もはや判別できないくらい岳人は滴っていた。
 日吉はほんの少し体を浮かせて、利き手で岳人の熱棒を握った。岳人がビクンと体をわななかせる。日吉は親指で先端を捏ね繰り回しながら、他の四本の指と掌を使って、岳人を扱いた。
「ん、んーっ、んーっ…!!」
 武道をたしなむ日吉の繊細だが逞しい指に弄ばれ、程なく岳人は達した。声にならない呻きが重ねあう唇から伝わってくる。

 岳人の白濁液は、二人のシャツを濡らしていた。日吉はその粘性の強さを指先で確かめてから、岳人を見据えた。
「…濃いな。…まさかとは思うけど、三日前にしてから抜いてなかったんですか?」
「ば…っ」、ハァハァと息を荒げながら、岳人は息を飲み込んだ。顔が真っ赤に染まる。どうやら図星のようだ。何とも分かりやすい。そこが彼のいいところなのだが。日吉は首を傾けて目を流した。
「もしかして、後ろを刺激しないと、物足りない?」
 日吉は掬い取った岳人の液体で、岳人の物欲しそうな穴を擦った。
「ふぁぁ…んっ!」
 悦びに鳴く岳人の唇から涎が溢れる。こちらもまた図星らしかった。
「自分で後ろを擦りながら抜けばいいじゃないですか。片手で扱いて、もう片方の手で後ろを擦って。…溜めるのは毒ですよ。」
「だ…誰が、そんな!」
「意地張っちゃって」日吉はいやらしく腰をひねり、そそり立った男根を、湿った岳人の中に打ち込んでいった。
「好きでしょう?俺の入ってるの思い浮かべながら、抜けばいいのに…」独り言を吐き出すように日吉は言った。「俺は、先輩の中に入れてるの想像しながら、抜いてますよ?」
 日吉の言葉を聞いて、気持ちが高ぶったのか、岳人の入り口がきゅうんと引き締まった。
「はふ…っ」、岳人は自分で締め付けておきながら、下半身いっぱいに広がる異物感に自ら悶えているようだった。「ば、バッカじゃねぇの…お前…。」
「溜まって、ぐだぐだになるよりは、よっぽど健康的でしょう。ていうか、そんなに締め付けないでください。先輩をイかせる前に、俺、一人でイっちゃいますよ。」
「う……。」
 押し黙ってしまった岳人を更に甚振るように、日吉は続けた。
「じゃあ…、チョコでも食べさせてもらおうかな。先輩がイきそうになるまで、食べながら待ってますから。」
 日吉は手探りで自分の鞄の中をかき回した。中から取り出したチョコレートの包装紙を乱暴に破り、袋から一粒摘み上げて、それを岳人の口の中に入れた。
 岳人がそれを味わう間もなく、日吉の舌が割り込んでくる。
「んぅ…っん!」
 互いの唾液にチョコレートが交じり合う。舌の上でとろけるねとねとした甘みが、口付けを交わす二人の喉をそれぞれに通り過ぎてゆく。
「…甘すぎるな。チョコレートはあんまり好きじゃないんです。せんべいの方がいい。」
 いささか苦々しい表情を浮かべつつも、日吉は淡泊な面差しで腰を前後に振り始めた。
 岳人の華奢な体を突き破らん勢いで、しなやかに日吉が入ってゆく。興奮していびつに固まった日吉の荒ぶる感触に、堪らず岳人は喘いだ。
「あ、あっ…!い、ひぃ…!いいっ……!」
「ダメですよ、先輩。ちゃんと食べさせてくれないと。」
「これ以上突いてあげませんよ」と日吉が嫌がらせのように囁くと、岳人は素直に従った。
 欲しくて堪らないとき、岳人は日吉に従わざるを得ない。自らの青くてしつこい欲求を満たせるのが日吉だけであることを、岳人は身にしみて知っていた。激しく揺さぶられる体躯で、箱から零れ落ちたチョコレートを咥え、日吉の口に運んでゆく。
 規則的な律動を加えて岳人を捩じらせながら、日吉は岳人の口の中を嘗め回した。
「先輩の中、すごくいいですよ…。やっぱりもう俺…イきそ…。先にイってもいい?」
 ふるふると岳人が頭を左右に振った。さらさらの髪が乱れて、汗ばんだ岳人の頬にひっつく。
「早く来ないと、先にイっちゃいますよ…ほら、ほら!」
 日吉を受け入れる岳人の道を破壊しつくすかのごとく、日吉は強く突き上げた。岳人は唇に甘い味覚、下半身に快い痺れ、その上に耳に日吉の煽りを受けて、否応なく二度目の絶頂に追い詰められた。
「あ…はぁん!いひぃ…、いぃ…っ、ク……っ!」
 そうして岳人は、一度は萎えた根から再び白い蜜を吐き出した。

「…また漏らしたんですか、向日先輩?」
 日吉は呆れたように岳人に目を据えた。クスっと失笑のような笑いをこぼす。
「俺はまだなのに。」
 実際、日吉の方はまだ達していなかった。岳人の中で、速度、強度ともに徐々に緩めてゆき、やがて日吉は動きを止めた。
 自分だけ先へとそそのかされたと知り、岳人の顔が羞恥で歪んだ。「お、お、お前…!」
 岳人の動揺を意に介することなく、日吉は岳人の中から自身を抜き出す。いまだに力強く上向いている男性が、岳人の目にあらわになった。
 それを見ると、尚も岳人は口を噤んでしまった。
 勃った日吉が、その日吉が岳人と交じり合うことが、いまや岳人にとって最も甘いものであり、彼はその欲望の前には勝てない。
 岳人が己を凝視しながら唾を飲み込むのを見て、日吉は征服欲を大いに満たされた気がした。
「今日は…、そうですね…」、日吉は下半身のもっとも熱を滾らせた部位を岳人の面前に突き出した。その顔には、薄情そうな笑みが浮かんでいた。
「チョコを食べながら、俺の、舐めてください。先輩は、"俺のチョコレート"が欲しかったんでしょう?…満足するまで、あげますよ。」







<あとがき>
変態日吉…!(汗)
こんな風になるはずではなかったのですが…まぁいっか(開き直った)
楽しんでもらえれば幸いなのであります!